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東京高等裁判所 平成元年(ネ)1338号 判決 1990年7月12日

控訴人 松濤文徳

右訴訟代理人弁護士 山野一郎

被控訴人 篠崎みや

<ほか二名>

被控訴人ら訴訟代理人弁護士 別紙目録記載のとおり

主文

一  控訴人の被控訴人篠崎みやに対する控訴を棄却する。

二  原判決のうち被控訴人島根テル子及び被控訴人田村国雄に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人島根テル子に対し、九二万円及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被控訴人田村国雄に対し、一三一五万円及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  被控訴人島根テル子及び被控訴人田村国雄の控訴人に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  控訴人と被控訴人篠崎みやとの間に生じた控訴費用は控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人島根テル子との間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人島根テル子の負担とし、控訴人と被控訴人田村国雄との間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その九を控訴人の負担とし、その余を被控訴人田村国雄の負担とする。

四  この判決の主文二1は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人に関する部分を取り消す。

2  被控訴人らの控訴人に対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者について

(一) 鹿島商事株式会社(以下「鹿島商事」という。)は、ゴルフ会員権の販売等を目的とする会社である。

(二) 控訴人は、昭和五九年一二月、鹿島商事に営業部員として入社し、昭和六〇年五月一日、課長に就任したが、鹿島商事の倒産により、同年八月一九日、同社を退職した。

(三) 被控訴人らは、鹿島商事から、後記のゴルフクラブ会員証券商法によりゴルフ会員権を購入した者である。

2  鹿島商事の違法行為

鹿島商事のゴルフクラブ会員証券商法は、以下のとおり、違法であった。

すなわち、鹿島商事が販売する株式会社豊田ゴルフクラブ(以下「豊田ゴルフ」という。)発行のゴルフクラブ会員証券は、預託金制度に基づくものではないから、会員権の資産価値は利用権の価値の有無によって決まるところ、豊田ゴルフ傘下の三〇コースのゴルフ場の実態は、海外及び僻地に数コースが営業しているにすぎず、その他のゴルフ場は計画中又は造成中で、営業を予定しているゴルフ場も実際には経営が困難な状況にあって、資産価値のあるゴルフ場はなく、右ゴルフ場の会員権はその販売価格に見合うだけの価値や将来値上がりする見込みがないものであり、また、右ゴルフ会員権の売買と同時に「オーナーズ契約」と称するゴルフ会員権の預け入れ契約を締結しても、約定の年一二パーセントの賃料を収受できる見込みもないばかりでなく、右ゴルフ会員権の元本返済の可能性も換金性(市場流通性)もないから、この商法が早晩破綻し顧客に損害を与えることが予想されたにもかかわらず、鹿島商事は、右ゴルフ会員権に換金性があり、将来確実に値上がりし、ゴルフ会員権を預けておけば会社において第三者に賃貸して年一二パーセントの賃借料を支払うので有利な利殖手段である等の虚偽の事実を申し向けて、その旨誤信した顧客らに対し、豊田ゴルフ傘下のすべてのゴルフ場を利用しうるゴルフ会員権である共通会員証券を売り渡すと同時に、これを豊田ゴルフが一〇年間借り受けて毎年一二パーセントの賃借料を前払いするとの「オーナーズ契約」を締結させて、ゴルフ会員権の売買代金名下に代金相当額を騙取する、という違法な詐欺的商法であった。

また、鹿島商事のゴルフクラブ会員証券商法は、ゴルフ会員権の売買とその賃貸借という形式を仮装していたが、その実態は不特定且つ多数の者から業として預かり金をしていたもので、右行為は、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律二条一項の規定に違反する。

3  控訴人の責任

控訴人は、鹿島商事のゴルフクラブ会員証券商法の違法性を知り又は容易に知り得べきであったにもかかわらず過失により、自ら又は自己の部下をして、被控訴人らとの間で違法なゴルフクラブ会員証券商法によるゴルフ会員権の売買契約を締結し、売買代金の交付を受けてこれを騙取した。

したがって、控訴人は、民法七〇九条、七一九条に基づき、被控訴人らに生じた損害を賠償する責任がある。

4  被控訴人らの損害

(一) 被控訴人篠崎について

(1) 被控訴人篠崎(大正一三年六月一日生)は、昭和六〇年六月、控訴人の部下で鹿島商事の従業員である山中美知子から、「ゴルフ会員権は、銀行や郵便局の預貯金と異なり目減りすることもなく、利子も銀行よりずっと率がよい。五年間置いておくと相当に価値が上がり、また一年ずつ会員権を第三者に賃貸することによって賃料も入ります。」等と豊田ゴルフのゴルフ会員権を購入するよう勧誘され、右説明を信じて、鹿島商事との間で一〇〇万円のゴルフ会員権の購入契約を締結し、その代金として一〇〇万円を支払い、同月一〇日ころ、第一回目の賃料として一二万円を受け取った。これにより、被控訴人篠崎は、結局八八万円の損害を被った。

(2) 被控訴人篠崎は、昭和六〇年六月一〇日ころ、鹿島商事東京第一支店において、右山中のほか、鹿島商事の従業員である控訴人、瀬戸克憲及び田中敏之からゴルフ会員権の追加購入を勧誘され、鹿島商事との間で二〇〇万円のゴルフ会員権の購入契約を締結し、翌日、その代金として二〇〇万円を支払い、二〇〇万円の損害を被った。

(3) 被控訴人篠崎は、被控訴人ら訴訟代理人弁護士らに本件訴訟の追行を委任し、その弁護士費用として二八万円を支払う旨約した。

(二) 被控訴人島根について

(1) 被控訴人島根(明治四五年四月三〇日生)は、昭和六〇年六月、鹿島商事において、鹿島商事の従業員である控訴人、椿崎清史及び瀬戸克憲らから、「鹿島商事のゴルフ会員権は絶対に安全で有利である。」等と購入を勧誘され、これを信じて、鹿島商事との間で一〇〇万円のゴルフ会員権の購入契約を締結し、その代金として一〇〇万円を支払って、右一〇〇万円の損害を被った。

(2) 被控訴人島根は、被控訴人ら訴訟代理人弁護士らに本件訴訟の追行を委任し、その弁護士費用として一八万円を支払う旨約した。

(三) 被控訴人田村について

(1) 被控訴人田村(昭和四年一月二一日生)は、昭和六〇年三月一〇日ころ、鹿島商事の従業員である控訴人及び菅菊良から、豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)の倉庫に入っている金が一杯になったので会社の方針が変更され、鹿島商事で豊田ゴルフのゴルフ会員権を売却することになった。豊田商事の大口契約者を重点的に切り替える。金の価格がさがっているので、今まで購入した純金ファミリー証券を全額ゴルフ会員権に差し替えた方が有利だ。土地は金のように値動きしないし、ゴルフ会員権は政治家もよく買っている。利率も、金は一〇パーセントだが、ゴルフ会員権は一二パーセントで得だ。」等と豊田商事との純金ファミリー契約を解約し、豊田ゴルフのゴルフ会員権を購入するよう勧誘され、同月一一日、豊田商事との合計六六〇〇グラムの純金ファミリー契約を解約したうえ、同月二〇日、鹿島商事との間で一二〇〇万円のゴルフ会員権の購入契約を締結し、右純金ファミリー契約の解約金一〇五六万円をもって右売買代金の支払に充当し、一〇五六万円の損害を被った。

(2) 被控訴人田村は、昭和六〇年三月二〇日すぎころ、控訴人からゴルフ会員権の追加購入を勧誘され、同月二二日、鹿島商事との間で一〇〇万円のゴルフ会員権の購入契約を締結し、同月二五日に八八万円を支払い、同日、同じく一〇〇万円のゴルフ会員権の購入契約を締結し、同日に八八万円を支払い、同月二八日、同じく一〇〇万円のゴルフ会員権の購入契約を締結し、翌二九日に八八万円を支払って、合計二六四万円の損害を被った。

(3) 被控訴人田村は、被控訴人ら訴訟代理人弁護士らに本件訴訟の追行を委任し、その弁護士費用として一三七万円を支払う旨約した。

5  一部弁済

以上の各損害に対する一部弁済として、被控訴人篠崎は二八万円、同島根は一八万円、同田村は一三七万円を破産配当により受領した。

6  よって、被控訴人らは、控訴人に対し、それぞれ、不法行為による損害賠償請求権に基づき、前記損害金とこれに対する不法行為の日以後である昭和六〇年七月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1(一)及び(二)の事実は認め、(三)の事実は不知。

2  同2については、争わない。

3  同3は争う。

4(一)  同4(一)は争う。

(二) 同4(二)は争う。

(三) 同4(三)は争う。

但し、控訴人は、昭和六〇年三月一八日ころ、菅菊良及び椿崎清史とともに被控訴人田村宅を訪れ、すでに購入していた豊田商事の純金ファミリー証券を豊田ゴルフのゴルフ会員権に切り替えるよう勧誘したことはある。

しかし、豊田商事の純金ファミリー証券は、当時既に価値を喪失しており、これをゴルフ会員権に切り替えても被控訴人田村に実害は生じていない。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがなく、請求原因1(三)の被控訴人らのゴルフ会員権購入の事実は弁論の全趣旨により認める。

二  請求原因2の事実(鹿島商事のゴルフクラブ会員証券商法が違法であったこと)は、控訴人の争わないところである。

三  右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  控訴人(昭和三二年二月生)は、昭和五九年一二月、鹿島商事に入社し、二、三週間の研修を受けた後、ゴルフクラブ会員証券商法による営業の仕事に就いた。朝礼や会議の席で上司から、ゴルフ会員権を貸し出しているので自信を持って販売するように言われる一方、他の従業員の中には、いわゆるオーナーズ契約で約束した年一二パーセントの賃料をどのようにして生み出しているかとの疑問を述べる者もあったが、控訴人は、上司の指示に従い営業活動にあたった。鹿島商事での給与は、一か月二七万円の固定給のほか、一〇パーセントの歩合給が支払われる約束であった。控訴人は、昭和六〇年三月及び四月と歩合給を含めて一か月一〇〇万円程度の給料を得た。

控訴人は、昭和六〇年五月一日付で鹿島商事東京第一支店の課長となり、部下の営業部員をしてゴルフ会員権の販売にあたらせた(課長は、自らゴルフ会員権の販売契約を締結する担当者になることはできず、部下の営業部員の販売成績が自己の営業実績となった。)が、豊田商事の倒産にともない鹿島商事も倒産したため、同年八月一九日付で鹿島商事を退職した。

2  鹿島商事は、豊田商事が行っていた詐欺的な純金ファミリー証券商法の破綻を回避するため、昭和五九年八月一〇日に設立された会社である。

すなわち、豊田商事の行っていた純金ファミリー証券商法は、顧客から金地金の購入代金名下で受け入れた金員の償還を前提としていたにもかかわらず、現物も保有していなかったため、早晩破綻を免れないものであった。そこで、純金ファミリー証券を償還の必要性がないレジャー会員証券に切り替えていくことが考え出された。右のようなレジャー会員証券のうち、豊田ゴルフクラブのゴルフ会員権を販売するために設立された会社が鹿島商事であった。

しかし、鹿島商事が販売する豊田ゴルフのゴルフ会員権は、前記のように、その対価に見合う価値はなかったし、同時に約束する年一二パーセントとの賃料の支払についても継続して支払える見込みは全くなかった。

3  鹿島商事の内部組織、給与体系、売買手法等は基本的には豊田商事のそれと違わなかった。

例えば、営業部員の昇格基準として、主任になるためには、当月及び前月の二か月間の導入トータルが一六〇〇万円以上の者か各月最低二〇〇万円以上の導入がある者であることが必要であり、主任から係長になるためには、当月及び前月の二か月間の導入トータルが二四〇〇万円以上の者か各月最低六〇〇万円以上の導入がある者であることが必要であると定められ、課長等の管理職への昇格基準としては、当月及び前月の二か月間のトータルの月平均ノルマ達成率、上位より二割の範囲内を昇格級対象者として検討する、但し、月平均ノルマ達成率が八〇パーセント以上であることを条件とする、と定められていた。こうしたことから、鹿島商事のゴルフクラブ会員権商法による売込活動は活発かつ強引に行われた。

4  豊田商事の純金ファミリー証券商法に問題があることは、昭和五六年ごろから新聞で指摘されていた。昭和五八年以降、豊田商事が詐欺的商法を行っていることは新聞、雑誌等でさかんに報道された。豊田商事が詐欺罪で告訴されたり、豊田商事に対して預け金の返還を求める集団訴訟が提起されたり、国会で豊田商事の商法が質問されたりしたことも報道されている。

鹿島商事のゴルフ会員権商法についても、昭和五九年秋ごろから、ゴルフ雑誌が、豊田商事がゴルフ会員権で詐欺的商法を行っていると報道していた。昭和六〇年四月になると、鹿島商事の従業員が詐欺罪で逮捕されたことや鹿島商事が豊田商事グループの会社であり、その商法に豊田商事と同様の問題があることが新聞で報道されるようになった。控訴人も、昭和六〇年三月ころには、鹿島商事が豊田商事グループの会社であることを、かつて豊田商事につとめていた同僚からきかされていた。

右認定した事実関係に照らせば、控訴人は、前記の鹿島商事のゴルフクラブ会員証券商法が豊田商事の詐欺的商法と関連、類似する違法なものであったことを十分知りえたにもかかわらず、これによる営業活動を続けたものと認めるのが相当である。(《証拠判断省略》)から、控訴人が自らゴルフ会員権を販売し又は部下をして販売させた行為は、不法行為に当たるものであり、これにより顧客に生じさせた損害を賠償する責任があると解される。

四  被控訴人篠崎の損害について

1  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人篠崎(大正一三年六月一日生)は、昭和六〇年六月四日ころ、鹿島商事から、電話で、ゴルフ会員権売買の勧誘を受け、鹿島商事の従業員で控訴人の部下である山中美知子が被控訴人篠崎宅にきた。山中は、被控訴人篠崎に対し、パンフレットを示しながら、豊田ゴルフにはハワイなどに何箇所にもゴルフ場がある、ゴルフ会員権は使わなくても年間一二パーセントの賃料で貸すことができる、貯金のつもりで預けて置けば利殖になる、マル優制度も廃止されるから、銀行預金や投資信託より有利である等と約四時間にわたりさかんに豊田ゴルフのゴルフ会員権購入を勧めた。被控訴人篠崎は、ゴルフクラブ会員証券商法の実態を知らないまま、山中の説明を信じて、一〇〇万円のゴルフ会員権を購入することを承諾し、当日内金一万円を、翌日残金九九万円を山中に支払った。

(二)  昭和六〇年六月一〇日、被控訴人篠崎は、山中に伴われて、鹿島商事の東京第一支店に行った。そこで、初年度の賃料一二万円の支払を受けるとともに、山中及び田中敏之から、更に三〇〇万円のゴルフ会員権を追加注文するよう勧められた。途中で、課長である控訴人が姿を現し、山中らと同様にゴルフ会員権の購入を勧めた。被控訴人篠崎は、ゴルフ会員権の追加注文を断ろうとしたが、約二時間にわたって執拗に勧誘されたため、結局、山中らの説明を信じ、二〇〇万円のゴルフ会員権を追加して購入することを承諾した。そして、当日、内金として二万円を支払い、翌日、銀行預金をおろして、山中に残金一九八万円を支払った。

2  前記1で認定した事実によれば、控訴人は、自己の部下である山中美知子をして、昭和六〇年六月四日ごろ一〇〇万円の豊田ゴルフクラブの会員権を被控訴人篠崎に購入させて、同人に八八万円(一〇〇万円から賃料として受領した一二万円を控除したもの)の損害を生じさせ、更に、自ら及び部下である山中らをして、同月一〇日二〇〇万円の豊田ゴルフクラブの会員権を被控訴人篠崎に購入させて、同人に二〇〇万円の損害を生じさせたと認めるのが相当であるから、控訴人は、右二八八万円の損害を賠償する不法行為責任を負うと解される。

3  被控訴人篠崎が同被控訴人訴訟代理人弁護士らに対して本件の訴訟追行を委任したことは記録上明らかであるから、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して、その弁護士費用二八万円は、控訴人の前記不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

4  したがって、控訴人は、被控訴人篠崎に対し、以上の損害合計三一六万円から受領したことを自認する二八万円を控除した二八八万円とこれに対する不法行為の日以後である昭和六〇年七月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになる。

五  被控訴人島根の損害について

1  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人島根(明治四五年四月三〇日生)は、昭和五九年七月、鹿島商事の従業員金子浩から、豊田ゴルフのゴルフ会員権は一年で一二パーセントの利益が上がる、途中で値上がりもするし、いつでも売れるから、預金より有利である、ゴルフ場は土地だから安全である旨説明を受け、金子の右説明を信じて、一〇〇万円のゴルフ会員権を購入し、更に、昭和六〇年二月、金子から紹介された藤田政章より、同様の勧誘を受け、合計五〇〇万円の豊田ゴルフクラブの会員権を購入していた。

(二)  被控訴人島根は、昭和六〇年六月、控訴人の部下となった金子に伴われて、鹿島商事の東京第一支店に行った。そこで、金子は、被控訴人島根に対し、豊田ゴルフクラブの会員権は絶対に安全で有利であるから、あと一〇〇万円のゴルフ会員権を購入してほしい旨執拗に勧誘した。東京第一支店の支店長椿崎清史や課長であった控訴人らも現われ、金子と同様に豊田ゴルフクラブの会員権の購入を勧めた。被控訴人島根は、ゴルフクラブ会員証券商法の実態を知らないまま、金子や控訴人らの説明を信じて、一〇〇万円の豊田ゴルフクラブの会員権の購入を承諾し、金子に一〇〇万円を支払った。

2  前記1で認定した事実によれば、控訴人は、自ら及び部下である金子をして、昭和六〇年六月、一〇〇万円の豊田ゴルフクラブの会員権を被控訴人島根に購入させて、同人に一〇〇万円の損害を生じさせたと認めるのが相当であるから、控訴人は、右一〇〇万円の損害を賠償する不法行為責任を負うと解される。

3  被控訴人島根が同被控訴人訴訟代理人弁護士らに対して本件の訴訟追行を委任したことは記録上明らかであるから、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して、その弁護士費用の請求額中一〇万円を控訴人の前記不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

4  したがって、控訴人は、被控訴人島根に対し、以上の損害合計一一〇万円から受領したことを自認する一八万円を控除した九二万円とこれに対する不法行為の日以後である昭和六〇年七月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになる。

六  被控訴人田村の損害について

1  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人田村(昭和四年一月二一日生)は、豊田商事から純金ファミリー証券を購入していた。豊田商事の担当者であった大和田正道は、昭和五九年一二月ころ、被控訴人田村宅を訪れ、豊田商事では金の購入者が多く、保管している金で一杯になった、今度純金ファミリー証券購入者に限って鹿島商事から豊田ゴルフクラブの会員権を販売することにした、金利は年一二パーセントと高率である等と言ってゴルフ会員権の購入を勧誘した。被控訴人田村は、大和田の説明を信じ、一〇〇万円のゴルフ会員権を購入した。更に、被控訴人田村は、大和田に勧められるまま、昭和六〇年二月には自宅を担保に金員を借りいれて約二三〇〇万円のゴルフ会員権を買い入れた。また、昭和六〇年二月末には、同じく豊田商事の担当者の一人で鹿島商事東京第一支店の課長となっていた菅菊良の勧誘で一〇〇万円のゴルフ会員権を購入した。

(二)  被控訴人田村は、昭和六〇年三月一一日ころ、菅と控訴人の訪問を受けた。菅らは、純金ファミリー証券より豊田ゴルフクラブのオーナーズ証券の方が有利である、ゴルフ場は土地だから値下がりすることはない旨説明し、償還期間のきた純金ファミリー証券を解約して、ゴルフ会員権を購入することを勧めた。被控訴人田村は、ゴルフクラブ会員証券商法の実態を知らないまま、右説明を信じ、控訴人に対して、豊田商事の純金ファミリー証券八通(六六〇〇グラム分)を渡し、右証券を解約してゴルフ会員権を購入することを依頼した。その結果、被控訴人田村は、昭和六〇年三月二二日ころ、鹿島商事から、合計一二〇〇万円のゴルフ会員権を購入して、純金ファミリー証券の解約料の中から一〇五六万円(一二〇〇万円から初年度の賃料一四四万円を控除したもの)を右売買代金の支払に充て、解約料の残金約四〇万円を現金で受け取った。

(三)  更に、被控訴人田村は、昭和六〇年三月二二日ころ、控訴人から、解約料の残金に足してゴルフ会員権を追加購入することを勧められ、同月二五日ころ一〇〇万円のゴルフ会員権を、同月二六日ころ一〇〇万円のゴルフ会員権を、同月三〇日ころ一〇〇万円のゴルフ会員権をそれぞれ購入し、合計二六四万円(三〇〇万円から初年度の賃料を控除したもの)を控訴人に支払った。

2  前記1で認定した事実によれば、控訴人は、昭和六〇年三月一一日ころ、菅とともに合計一二〇〇万円の豊田ゴルフクラブの会員権を被控訴人田村に購入させ、純金ファミリー証券の解約料一〇五六万円を右売買代金の支払に充当させて、同人に一〇五六万円の損害を生じさせ、更に、同月二五日ころから三〇日ころまでの間に三回にわたり合計三〇〇万円の豊田ゴルフクラブ会員権を被控訴人田村に購入させて、同人に合計二六四万円の損害を生じさせたと認めるのが相当であるから、控訴人は、右合計一三二〇万円の損害を賠償する不法行為責任を負うと解される。

控訴人は、豊田商事の純金ファミリー証券が既に価値を喪失しており、これをゴルフ会員権に切り替えても損害は生じていない旨主張する。しかし、《証拠省略》によれば、豊田商事が純金ファミリー証券により金地金の購入代金名下に顧客から導入した金額は二〇〇〇億円余りに達し、その大部分は豊田商事の幹部、外交員らへの分配や一般経費に充てられたが、五〇〇億円ほどは顧客に償還されたことが認められる。してみると、その自転車操業的業態からしていずれ破綻することは必至であったにせよ、純金ファミリー証券が一律に償還の可能性の全くないものであったということはできず、本件当時において既に無価値のものになっていたと断定しうるだけの資料は見当たらない。また、先の認定によれば、豊田商事が純金ファミリー証券により顧客に対して負担している償還義務の履行を回避するために、鹿島商事及び控訴人は、豊田商事の純金ファミリー証券が額面どおりの価値があることを前提として、ゴルフ会員権の購入を積極的に勧め、その解約料をゴルフ会員権の売買契約の代金支払に充当し、解約料の残りを現金で支払っているのであるから、これを覆して、純金ファミリー証券は無価値であったとし、実質的に解約料や売買代金の支払が何もなかったというに等しいことを主張することは信義則上も許されないというべきである。

3  被控訴人田村が同被控訴人訴訟代理人弁護士らに対して本件の訴訟追行を委任したことは記録上明らかであるから、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して、その弁護士費用の請求額中一三二万円を控訴人の前記不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

4  したがって、控訴人は、被控訴人田村に対し、以上の損害合計一四五二万円から受領したことを自認する一三七万円を控除した一三一五万円とこれに対する不法行為の日以後である昭和六〇年七月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになる。

七  以上のとおり、被控訴人篠崎の請求はすべて理由があるからこれを認容し、被控訴人島根の請求は、損害賠償金九二万円及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、被控訴人田村の請求は、損害賠償金一三一五万円及びこれに対する昭和六〇年七月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、控訴人の被控訴人篠崎に対する控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人島根及び同田村に対する控訴は一部理由があるから、原判決の被控訴人島根及び同田村に関する部分を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 岩井俊 小林正明)

<以下省略>

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